脳について教えてください
私たちの脳は体の中で最も活動的で重要な器官で、身体の各部から出す情報を受け取り、それに応じて的確に命令を下す「司令塔」です。
脳は大きく大脳・小脳・脳幹に分けられ、重さは約1,200グラム位(体重の50分の1、約2%)です。
また、脳の中を流れる血液の量は心拍出量の約15%にあたる750mlになり、酸素は20%、グルコース(ブドウ糖)は25%も消費します。
酸素とグルコースは全く脳内に蓄えがないので、その全部を血液から摂取しています。
休みなく流れる血液が絶え間なく酸素とグルコースを脳へ供給することにより、初めて脳はその活動を維持することが出来ます。
すなわち、脳が「司令塔」としての働きを維持するためには、たくさんの酸素とブドウ糖が必要で、血流が完全に途絶えてしまうと、脳細胞はわずか10~20分で死んでしまいます。
一般に脳循環が10秒間停止すると、意識を失い数分以内に脳細胞は元に戻らない損傷を受けるといわれおり、脳細胞は大きく分けて神経細胞とそれを取り巻くグリア細胞がありますが、神経細胞は10分間酸素が遮断されると死滅するとも言われています。
すなわち脳は、虚血にもっとも敏感で弱い組織であり、血管の完全閉鎖が突然生じた場合はどんな治療も時間的に間に合いません。
そして脳神経細胞は、決して再生されることはなく、それらの欠損は重大な身体または精神の機能障害を永久に招くことになってしまいます。
また、脳は場所によって組織構造が異なりその役割分担が決まっているため、脳卒中(脳出血、脳梗塞)などで傷つく場所の違いによって、いろんな症状が出てしまうのです。
大脳について
終脳とも呼ばれ、頭蓋骨の直下に位置していて、中枢神経系の一部を司っています。 大脳を大きく分けると大脳皮質・白質・大脳基底核の三つの構造に分けられます。
大脳皮質とは?
大脳皮質は、大脳の表面を覆っている灰白色の部分(灰白質)のことで、深いシワ状になっており、表面積は約2500平方センチと広げると新聞紙の一面大に相当し、約2.5mmの厚さの層に140億もの神経細胞が詰まっています。 大脳皮質は、さらに大脳新皮質と大脳旧皮質とに分けられます。
大脳新皮質は、大脳の部位のうち「よりよく生きる」部位を指します。 いわゆる下等生物は小さく、高等生物は大きいとされています。
大脳新皮質の構成は、前頭葉(ピンク)・頭頂葉(ブルー)・側頭葉(イエロー)・後頭葉(グリーン)という4つの「葉」からできています。
前頭葉はおもに人格、意欲、創造性などを担っており、側頭葉とともに耳から入った刺激から言葉を理解したり、長期の記憶を保持します。
また、脳の右側(右半球)は、直感力や感受性を支配し、脳の左側(左半球)は、言語理解、計算、分析力を支配します。 これら各部位によって特定の役割がありますが、「各部位は独立して機能しているわけではない。」といわれています。 大脳新皮質は、より人間らしく理性を持ち、人間性を高めながら、人間関係を上手に築く為、社会の中で上手に生きようとする脳です。
この脳を発展させる事により人類は、より良い社会を築いてきました。
しかし、動物の脳である大脳辺縁系にストレスが溜まってしまうと、理性の脳である大脳新皮質は氾濫を起こし、その為に社会と上手に関わる事が出来なくなってしまいます。
より良く生き生きとした未来の人生のためには、大脳新皮質を上手に伸ばしてあげる必要があるでしょう。
大脳旧皮質は、大脳新皮質の内側にある大脳核(神経柵胞の集塊)とともに大脳辺緑系という機能単位を形成しています。
進化的には古い部分であるこの大脳旧皮質は、食欲や性欲などの本能的な活動・怒り・恐怖といった感情を支配する場所で、同じ感情でも、喜びや悲しみなどは古・旧皮質ではなく、系統発生的に新しい前頭葉の皮質で生み出されていると考えられています。
もともと本能しか持たなかった人間は、進化して大脳新皮質が発達するとともに、喜び、悲しみなど、より複雑な感情を備えるようになったと考えられています。
白質
白質は、大脳皮質の下にあり、神経細胞体がなく神経線維ばかりの部分を言います。
白質の由来は、新鮮な脳組織の断面を肉眼的に観察したときに、明るく光るような白色をしていることからで、有髄神経線維のミエリン鞘の主成分として大量に存在しているミエリンが白い色をしているためで、白質には灰白質に比べて有髄神経線維が多いからと考えられています。
大脳基底核
大脳基底核は、大脳中心部で間脳の周囲を囲むように存在し、大脳皮質と視床・脳幹を結びつけている神経核の集まりです。
哺乳類の大脳基底核は運動調節、認知機能、感情、動機づけや学習など様々な機能を担っています。
大脳基底核の神経変性疾患の代表的なパーキンソン病は、無動、寡動、安静時振戦、筋固縮などの運動症状がよく知られています。
その他に、ハンチントン舞踏病やジストニアも、大脳基底核の異常が症状を作り出していると考えられています。
これら大脳基底核の異常によって起こる不随意運動を示していることは、逆に大脳基底核が随意運動に重要な役割を果たすことを示しています。
小脳について
小脳は、脳を背側から見たときに大脳の尾側・脳幹の背側にあり、外観がカリフラワー状をしています。
重さは成人で120~140グラムで、脳全体の重さの10%強になります。
小脳の主な機能は、知覚と運動機能の統合であり、平衡・筋緊張・随意筋運動の調節などを行います。
小脳には、大脳運動野(情報を筋肉に伝達して運動を起こさせる)と脊髄小脳路(身体の位置を保持するため身体の内部からの情報を脳に伝える)を結ぶ多くの神経回路が存在します。
運動を微調整するため体位に対し絶えずフィードバックをかけることで、これらの経路を統合しており、身体全体の協調運動の制御を行います。
そのため小脳が傷を受けると、運動や平衡感覚に異常をきたして精密な運動ができなくなったり、酒に酔っているようなふらふらとした歩行になることがあります。
脳幹について
脳幹は、主に中枢神経系を構成する器官で、延髄・橋・中脳・間脳を合わせて脳幹と呼びます。
ただ、間脳は脳幹ではなく大脳の仲間になることもありますが、間脳をのぞいた場合は、「下位脳幹」とも呼ばれます。
脳幹は多種多様な神経核からできていて、この小さな部分に多くの生命維持機能を持っており、人間が生きるためのとても重要な部分を司っています。
脳幹の主な機能は以下のとおりです。
- 多数の脳神経が出入りし、多数の神経核が存在します。
- 姿勢反射の中枢です。
- 自律神経機能中枢が存在します。
- 脊髄から視床へ上行する感覚神経路が存在します。
- 上位中枢から脊髄に下降する運動神経路が存在します。
- 意識と覚醒に重要な神経回路があると言われています。
脳神経ってなんだろう?
神経
神経(Nerve)は、動物に見られる組織で、情報伝達の役割を担っています。
日本語の「神経」は、杉田玄白らが解体新書を翻訳する際に、神気と経脈とを合わせた造語をあてたことに由来しており、これは現在でもそのまま使われています。
脳神経(cranial nerves)とは、脊椎動物の神経系に属する器官で、脳から直接出ている末梢神経の総称です。
これに対して、脊髄から出ている末梢神経のことを脊髄神経と呼びます。
ヒトなどの哺乳類やその他爬虫類・鳥類などの脳神経は、主なものだけで左右12対存在し、それぞれには固有の名称が付けられています。
また、この名前とは別に神経が脳と接続されている部位(脳から出る部位)によって、頭側から尾側の順になるように付けられた番号でも呼ばれます。(脳神経の番号は、ローマ数字で表すことが多いです)
脳神経
No | 番号名 | 固有名 | 主な働きなど |
---|---|---|---|
1 | 第I脳神経 | 嗅神経 | 嗅覚 |
2 | 第II脳神経 | 視神経 | 視覚 |
3 | 第III脳神経 | 動眼神経 | 眼球運動 |
4 | 第IV脳神経 | 滑車神経 | 眼球運動(上斜筋) |
5 | 第V脳神経 | 三叉神経 | 顔面・鼻・口・歯の知覚、咀嚼運動 |
6 | 第VI脳神経 | 外転神経 | 眼球運動(外直筋) |
7 | 第VII脳神経 | 顔面神経 | 表情筋の運動、舌前2/3の味覚、涙腺や唾液腺の分泌 |
8 | 第VIII脳神経 | 内耳神経 | 聴覚、平衡覚 |
9 | 第IX脳神経 | 舌咽神経 | 舌後1/3の知覚・味覚、唾液腺の分泌 |
10 | 第X脳神経 | 迷走神経 | のどの知覚・運動、頚胸腹部の臓器を支配 |
11 | 第XI脳神経 | 副神経 | 肩や首の筋肉の運動(僧帽筋、胸鎖乳突筋) |
12 | 第XII脳神経 | 舌下神経 | 舌の運動 |
脳神経は第I~第XII神経まで存在し、全て脳幹から発生していますが、発生元の脳の場所が異なります。
第I~第III脳神経までは中脳から、第IV~第VIII脳神経は橋から、第IX~第XII脳神経は延髄から、それぞれ発生しています。
嗅神経と視神経は、厳密には中枢神経の延長ですが、昔から末梢神経に含めて考えられています。
この12対が、脳から出る神経のすべてというわけではありません。
終神経や鋤鼻神経など、上記の12対に含まれない脳神経も存在します。
これらは人間では退化してしまっていますが、動物ではよく発達しており、フェロモンを感じ取る役目があるといわれています。
また、魚類・両生類の脳神経は、10対であるとされています。
脳血管障害ってどんな病気?
脳血管は、脳に酸素や栄養を送る血管です。
動脈の構造は、通常内膜・中膜・外膜の三層からなっていますが、脳の動脈は中膜の平滑筋層が厚くて弾力が少なく、クモ膜下腔の脳脊髄液の中をクモ膜梁柱によって緩やかに支えられながら浮いています。
内頚動脈の直径は4-5mmで、その中を流れる血液の平均流速は約50 cm/secであり、この血流速度は、心臓が収縮したときには速くなり、拡張したときには遅くなります。
脳では、動脈壁の内側を高圧の血液が猛烈なスピードで流れ、動脈壁の外側は低圧でゆっくりと脳脊髄液が流れています。
心臓から枝分かれした総頚動脈は、さらに内頚動脈に分かれて頭蓋内に入り、3つの血管(前大脳動脈、中大脳動脈、後大脳動脈)になります。これとは別のルートで、頚骨動脈からも脳へ血液が送られ、これらの血管は脳底動脈で繋がっています。
心臓から送られた血液は、脳動脈から脳細胞に酸素や栄養を渡した後、脳静脈へとつながり心臓に戻ります。
脳はその重量のわりに多くの血液が流れていて、酸素と栄養が常に供給されています。
脳血管障害とは、血管がつまる脳梗塞、破れる脳出血および先天的にある動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の3つの疾患を総称したものです。
日本人では脳血管のうち比較的細い血管の動脈硬化などにより脳血管障害が起こります。
脳血管障害は、65歳以上の高齢者の死因で第3位(2004年)を占めているだけでなく、高齢者の運動障害や認知症などの精神障害の原因の多くを占めており、高齢者が介護を受ける主な原因となっている病気です。
このため、脳血管障害は予防・早期発見・早期治療・早期リハビリテーション・再発予防の一環して継続した医療が欠かせません。
脳血管障害のうち急激に発症したものを、脳卒中 (Stroke, Apoplexy) または 脳血管発作 (Cerebrovascular attack: CVA)と呼ばれます。脳卒中は、脳の中に何か(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞)が突然起こり、意識がなくなったり、手足が麻痺したりする病気です。
脳卒中には「虚血性(血管が固まる)」と「出血性(血管が破れる)」に大きく分かれます。
虚血性のものには脳梗塞があり、脳血栓と脳塞栓に分けられます。また脳血栓は詰まる血管の違いからアテローム血栓性梗塞とラクナ梗塞とに分けられます。
この他、一過性脳虚血発作と呼ばれる一時的に脳梗塞と同様の症状が現れ、24時間以内に回復するものもありますが、これはいったん詰まった血管が再開通するために症状が回復するもので、脳梗塞の前触れと考えられるものです。
出血性のものには脳出血(以前は脳溢血)とくも膜下出血があります。くも膜下出血が恐れられるのは、最初の発作のときに何の治療もできないで死亡する人が30%もいるからです。
脳卒中は1年間に、全国で男性14万人、女性10万人が発症しています。
1980年までは、日本人の死亡原因の第1位が脳卒中だったのですが、治療の進歩と予防医学の発達により年々減少し、現在ではガン、心臓病に次いで第3位になっています。
しかし、脳卒中で亡くなる方は急激に減少しましたが、脳卒中にかかる人(特に脳梗塞)は増加しています。つまり、脳卒中により何らかの障害(後遺症)を持っている人が増えているといえます。
脳血管障害(脳卒中)を発症してから二週間以内を急性期と呼んでいます。
この時期は病状が安定しないので、すぐに入院して治療を始めることが重要です。
急性期の治療は、全身状態を改善させるための全身管理と、脳の病変を改善させるための薬物療法が中心となります。
動脈瘤ってなんだろう?
動脈瘤(りゅう)は血管の動脈内で起こる病気です。動脈のかべ(動脈壁)が何らかの原因で弱くなり、その部分が血流に押されて徐々に膨らむことで血管の一部がこぶ状になることから動脈瘤と呼ばれます。
動脈瘤の多くは動脈硬化が原因といわれており、高齢で高血圧の方や喫煙者の方は発症するリスクが大きくなりますが、その他に感染症や外傷によっても発症する場合があります。
また、遺伝的に一親等内で家族歴がある場合にも発症率が高いともいわれています。
動脈瘤は、血液の経路となる動脈の頭部、腕、胸部、腹部、および抹消部で発症します。
部位によってそれぞれ脳動脈瘤、胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤、抹消動脈瘤などがありますが、脳神経外科では脳動脈瘤を専門に治療します。
多くの場合、発症しても動脈周辺の神経への圧迫などの影響がない限り症状として現れないことがありますが、一旦破裂すると後遺症や死に至る場合が多く危険な病気です。
動脈瘤は、一般的な定期健診などで発見されることは少ないですが、CT(X線コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴断層撮影)の登場で容易に血管の状態を調べることができるようになり、発見する確率が高くなりました。
そのほかに血管造影、超音波等も利用されています。
これらの機器を利用して、外来受診でその日に判明する場合や、数日間の検査入院で判明する場合もあります。
さらに脳ドックと呼ばれる特定部位などの検診も盛んになってきており、未破裂状態で動脈瘤が検出されるケースも増えています。
動脈瘤が発見されてもすぐに破裂するというわけではありません。部位、形状、大きさなどの状態や経過を観察したり、その人の年齢や健康状態によってさまざまな治療方法が検討されます。
動脈瘤は大動脈に沿ってどの部位にもできますが、高齢になると特に動脈が分岐する箇所や膝窩動脈などの強い圧迫を受けやすいところで発生しています。
さらに高血圧や喫煙は動脈瘤になるリスクをさらに高めているということになります。
この血管のコブはある程度大きくならないと大動脈瘤とはよばれません。
もともとの血管のふとさは女性と男性でも違いますし、小柄か大柄かでもちがいますが、目安は正常な血管の直径の約2倍以上となると動脈瘤と判断します。
動脈瘤の形状
動脈瘤には、紡錘(ぼうすい)状と嚢(のう)状という2種類の形状があります。
紡錘状は、血管の管を取り囲むようにして瘤状に形成されたもので、嚢状は、血管の一部にぽつんと飛び出した瘤のようにできるものです。
また瘤の壁の構造によって、真性瘤・乖(かい)離性瘤・仮性瘤とに分類されます。
真性瘤は、元々の動脈壁が弱くなってできた瘤が見られるもので紡錘状と嚢状があり、ほとんどがこの真性瘤です。
これが最も危険な症状で、未破裂状態のときはまったく自覚症状はありません。
乖(かい)離性瘤は、大動脈壁の乖(かい)離によるもので紡錘状です。
(大動脈乖(かい)離)仮性瘤は、動脈壁が裂けて穴が開いたところへできた瘤で嚢状で、外傷や感染が原因で発症します。
手術が必要となるのは、瘤の大きさが大体40mm以上が目安になります。また嚢状の場合は大きさの進行具合によって判断されています。
ただし、破裂した場合は大きさに関係なく即座に手術の適用となります。
くも膜下出血
脳および脊髄の保護のための膜を総称して髄膜と呼びます。
髄膜は、外側から硬膜・くも膜・軟膜という3層で構成されています。
この中で、較膜とくも膜の間にあるすき間(くも膜下腔)には、脳の比較的太い動脈がたくさん根を張るように走っています。
くも膜下腔の動脈が破裂して脳の表面に出血がおこるのが、くも膜下出血という病気です。
出血がおこると、その瞬間に激痛ともいえるような頭痛と吐き気に襲われます。
脳動脈瘤の破裂
小さく膨らんだ出来始めの動脈瘤の壁はきわめて薄く、10μm以下です。動脈瘤が破裂すると、血液が動脈の外に漏れることになります。
しかし、高圧の動脈に穴が開くと、血液がその穴から勢いよくくも膜下腔に流れ出し、裂けた穴は広がっていき、脳の圧は一瞬にして高圧の動脈圧と同じになります。
この時、頭をハンマーで殴られたような頭痛が起きます。
その後脳圧が上昇するため、脳に十分な血液が流れなくなり、脳はくも膜下出血の発生と同時に首を絞められ窒息するような状態になり意識を失います。
そして脳は出血で破壊されるだけでなく、重篤な脳虚血(脳に血が流れない状態)になり瀕死の状態に陥ります。
脳は、この状態に5分以上耐えられず、その場合呼吸は止まり、最悪突然死に至ってしまいます。
また破けた穴が小さく、その部位に血栓ができて止血された場合、動脈壁は一時的に修復されて脳圧が下がり、血液が再び流れ始めて、脳は活動を取り戻し意識が戻ります。
急性期くも膜下出血の病態の治療の可能性
くも膜下出血後に早急にしなければならない処置は、再出血の予防を開頭クリッピング術で行なうことです。
しかし、くも膜下出血は病院にたどり着く前に死亡する症例が多いため、くも膜下出血全体の予後は現在でもあまり良くはありません。そのため、現在では動脈瘤が破裂する前すなわち未破裂脳動脈瘤状態の時に発見し、積極的に治療を行う傾向にあります。
しかしながら、一生破裂しない脳動脈瘤もあり、理想的には将来破裂する可能性のある動脈瘤のみを破裂する前に治療することが肝要です。
上記の研究を20年以上にわたって行ってきたのが当院に来院している氏家医師であり、セカンドオピニオンを求めて相談する価値は十分にあるでしょう。
高血圧性脳内出血
高血圧性脳内出血は降圧剤の普及および脳卒中の治療の進歩にともなって急減した疾患です。
高血圧性脳内出血を大まかに分類すると、被殻出血50%、視床出血 25%、小脳出血 10%、脳幹出血 10%、皮質下出血10%になります。
これらの出血の中で若年発症例では脳動静脈奇形の破裂、老年でかつ多発性に発症する皮質下出血ではアミロイドアンギオパチー、脳幹出血では海綿状血管腫との見分けが必要です。
被殻出血の原因は、線状体動脈の壊死性血管炎に引き続く出血と考えられ、血腫が30mlを超えると大きな影響を及ぼし、意識障害も生じます。
内包または放線冠を傷害する症例は60%以上で、血腫が急激に増大しかつ血腫の形が半卵円形でなくいびつな症例では血腫周囲の血管からの2次性出血も引き起こされ、脳ヘルニアを引き起こす可能性が有るため、生命予後の改善のために緊急手術が必要となります。
視床出血は血腫の増大と共に脳室穿破、急性水頭症、内包傷害を引き起こす頻度が高く、それに伴って意識障害を引き起こす頻度も高くなります。
血腫が脳室内全体を占拠し水頭症が生じているかもしくは生じる可能性のある場合には、内視鏡を用いた血腫吸引術を行う事になります。
小脳出血は後頭蓋下が狭い空間の為、血腫が大きくなった場合小脳症状だけでなく脳幹圧迫症状も現れてきます。
このような場合には緊急血腫除去術の手術が必要になります。
脳梗塞
脳梗塞は、脳血管障害のなかでも高齢者に特に多い疾患です。
脳梗塞の種類は、動脈硬化が原因で血管が狭くなって詰まる場合(脳血栓)と、心臓弁膜症などに伴う心臓内の血栓が脳動脈に流れて血管をつまらせる場合(脳塞栓)の2つの種類があります。
この脳梗塞が起こる場所によって、運動障害・感覚障害・精神障害が起こり、また障害の程度も軽いしびれ程度から「遷延性意識障害(いわゆる植物状態)」になることもあり、発症後数日中に死亡することもあります。
また、小さい梗塞が再発を繰り返すなかで脳の複数の部位に梗塞ができる「多発性脳梗塞」は高齢者に少なくありません。
このタイプの脳梗塞になっても全く症状のない場合や認知症になる場合など症状は多彩です。
脳梗塞が起こりやすい危険因子としては、高血圧・糖尿病・高コレステロール血症・心房細動があります。
さらに75歳以上の後期高齢者では、老化に伴う血管の硬化性変化があるので、こうした危険因子がなくても脳梗塞を起こすことがあります。
また脳梗塞を発症させる要因として重要なのが脱水です。
脳梗塞が疑われたらできるだけ早く受診し、検査を受け、必要な治療を受けることが大切です。
たとえしびれ程度の軽い症状でも数時間のうちに重い脳梗塞に進展することもあり、重い後遺症を残し、あるいは死亡することもあるからです。
一般的に早期発見・治療は、脳梗塞の後遺症が少なくてすみます。
さらに近年には、発症後2・3時間のうちに治療を受けると、脳梗塞を完治すことも可能になってきています。
血行再建術
1977年依頼行われたEC-IC bypass 手術の有効性に関する国際共同研究の結果は、この手術がアスピリン投与による内科治療に比し、脳卒中の予防に関して差がないというものでした。
この結果が発表された1985年以来虚血性脳血管障害に対する手術例は減少していますが、やはり外科的血行再建術でなければ救えない症例は存在します。
前述のEC-IC bypass 国際共同研究で検討された手術のほとんどの症例は、STA-MCA anastomosis(浅側頭動脈STA: superficial temporal artery, MCA: middle cerebral artery, 浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術)です。
浅側頭動脈STAを通して流れる血流量は、以下のように計算されます。
Area(血管断面積:平方ミリメートル) x Mean velocity(血管内平均血流速度:ミリメートル/秒)
= Blood volume(単位時間あたりに流れる血流量:立方ミリメートル/秒)
STAの直径は約1ミリメートル、平均血流速を500ミリメートル/秒なので、
0.5×0.5×3.14x500x60 = 23550立方ミリメートル/分 ≒ 24ミリリットル/分 (1000立方ミリメートル=1ミリリットル)
STA吻合術によって期待できる血液量は、中大脳動脈領域全体をカバーできません。
そのため直ぐに大量の血液供給が欲しい場合には、STAではなくもっと大きな血管を移植してBypassしなければいけないことになります。
この大きな移植できる血管として撓(とう)骨動脈(radial artery)が最適です。
その直径は2.5-3.5ミリメートルあるので、中大脳動脈の太さに近く、
Area x Mean velocity=1.3×1.3×3.14x500x60 = 160ミリリットル/分ミリメートル
の血液量が流れる計算になります。
すなわち内頚動脈、中大脳動脈、脳底動脈領域等の全領域の血流をカバーするためには、撓(とう)骨動脈(radial artery)を用いた high flow bypass がもっとも有効です。
脳腫瘍ってどんな病気?
脳腫瘍は、発病率・有病率の頻度が1万人に一人程度と大変少なく、なかなか一般に理解されていない病気です。まず誤解のないようにすると、脳腫瘍と一般的にひとくくりにされている腫瘍は、必ずしも脳や神経を直接侵すわけではありません。
頭蓋の中の組織(硬膜・神経鞘(ショウ)・脈絡叢(ソウ)・下垂体・松下体など)から発生したものや、他臓器の癌の脳転移まで、頭蓋骨内に発生するすべての腫瘍を総称して脳腫瘍と呼んでいます。
その中で、転移性脳腫瘍は20%弱、原発性脳腫瘍で頻度の高いものは脳組織そのものから発生する神経膠(コウ)腫が25%、脳髄膜(硬膜・くも膜・軟膜)から発生する髄膜腫が20%強、下垂体腺種が約15%などとなっています。
脳腫瘍は、その場所で最初から生じた原発性脳腫瘍と、体の他の部位のがんが転移してきた転移性腫瘍とに分けられます。
原発性脳腫瘍は、さらに脳そのものから発生する腫瘍(脳実質内腫瘍)と、脳を包む膜や脳神経、下垂体などから発生し脳を圧迫するように発育する腫瘍(脳実質外腫瘍)とに大きく分けられています。
原発性脳腫瘍は人口10万人当たり年間10~12人位の発生頻度と言われています。
原発性脳腫瘍も体のほかの部分の腫瘍と同じように、良性、悪性腫瘍に分かれます。
腫瘍ってなんだろう?
腫瘍(tumor)とは、組織、細胞が生体内の制御に反して自律的に過剰に増殖することによってできる組織塊のことですが、異常な細胞増殖であっても、他律的に起こるものは過形成として区別されます。
病理学的には、新生物(neoplasm)と同義で、neoplasmはギリシャ語のneoplasia(新形成)からできた単語です。
また、腫瘍は、もとはラテン語で単に「腫れ上がる」という意味でした。
腫瘍細胞は、環境さえ許せば(例えば人工的な培地で培養されるなど)無限に増殖する能力を持つ不死化した細胞です。
腫瘍は、良性腫瘍(benign tumor)と悪性腫瘍(malignant tumor、cancer)とに分類されます。
良性腫瘍(benign tumor)は、一般に増殖が緩やかで宿主に悪影響を起こさないもので、悪性腫瘍(malignant tumor、cancer)は、近傍の組織に進入し、遠隔転移し、宿主の体を破壊しながら宿主が死ぬまで増え続けてゆくものです。
脳腫瘍
脳腫瘍は、頭の骨(頭蓋骨)の内側に生じるできもの(腫瘍)をいい、子供からお年寄りまでさまざまな年代に生じます。
また脳腫瘍は、ある程度の大きさになり頭蓋骨の内側が圧迫されることによって、共通した症状があらわれます。(腫瘍の種類に関係ありません) 頭が痛い(頭痛)、吐く(嘔吐)、目がかすむ(視力障害)などが代表的な症状で、これは頭蓋内圧亢進症状と呼ばれています。
特に早朝頭痛と言われるような朝起床時に強い頭痛を訴える場合や、食事とは無関係に悪心を伴わずに吐く場合などは、頭蓋内圧亢進症状である可能性が高く、脳腫瘍が疑われます。
けいれん発作も脳腫瘍の初発症状としてはとても重要で、腫瘍がまわりの神経細胞を刺激することによって生じます。
大人になってから初めてけいれん発作が生じた場合、脳腫瘍を疑う必要があります。
頭痛、嘔吐、視力障害、けいれん発作といった一般的な症状に加えて、脳腫瘍の発生した部位の働きが妨げられて、麻痺や言葉の障害、性格変化などさまざまな症状が出現してきますが、これらは局所症状と呼ばれます。
また、下垂体に腫瘍が発生すると、ホルモンの過剰分泌症状 (無月経・顔貌や体型の変化など)も生じます。
上記のような症状が現れた場合、まず脳腫瘍が疑われますので当院の脳神経外科への受診をお薦めします。
特徴
- 他の臓器と違い、良性か悪性かの明確な区別がない
転移性脳腫瘍は、もともと癌であるため明らかに悪性ですが、それ以外の腫瘍は悪性度(再発のしやすさ、腫瘍の増殖率の高さ、播種(はしゅ)のしやすさなど)、悪性転化の起こりやすさなどが細かく規定されています。
また、同じ病理診断がついた腫瘍であっても、その悪性度にはかなりばらつきがあるので注意が必要です。 - 腫瘍が直接脳や神経から発生し、そのために生じる問題点が加味される
つまり、腫瘍によって脳や神経の組織が破壊されたり、浸潤されたりすることによる神経脱落症状をきたすことが多いという問題です。
また、摘出術を行う際に腫瘍を取り除くことで後遺症をきたしてしまうというジレンマに直面するため、治療に難渋することが多いのも問題となります。 - 手術以外の有効な併用療法が確立されていない
他臓器の腫瘍には放射線療法・化学療法などがかなり有効なものもありますが、今のところごく特殊なタイプの脳腫瘍を除いては、放射線療法も腫瘍抑制効果はあっても治療を期待できる確率は少なく、まして画期的に有効な化学療法はいまだ開発されていないという特徴があります。
治療
上記のような特徴を持つ脳腫瘍の治療には、なかなか画一的な治療法が決め難いことが多いです。
したがって、患者さん一人一人のQOL(Qality Of Life)を十分に理解したうえで、より満足度の高い治療が行えるよう、医療側と患者側が事前にしっかりした相互理解を確立したうえで治療を行うことが求められます。
- 手術
非常に良性度の高い腫瘍であり、かつ全摘出できる場合は、手術のみで完治することもあります。
腫瘍が機能領域に存在するため摘出が困難な時や、良性でない腫瘍(増殖率の高いもの)の場合は、以下のような併用療法が推奨されます。
ただ、現時点では脳腫瘍の一番確実な治療は、手術による腫瘍の全摘出です。 - 放射線療法
一般に、50~60Gyの外照射にて治療されます。また、局所照射の追加や高線量の照射も行われています。
その他、腫瘍によってはガンマナイフ、サイバーナイフ、IMRT、プロトンビームなどの治療も比較的よく行われるようになってきました。 - 化学療法
腫瘍の種類によっては化学療法が効果的なもの(悪性リンパ腫、胚細胞腫瘍、一部の稀突起膠(コウ)腫)もありますが、ほとんどの腫瘍は化学療法に抵抗性です。
ただ、以前は点滴注射がほとんどでしたが、内服可能な薬(テモダール)が承認されてから、自宅での療養が容易になってきました。
脊髄・脊椎疾患ってどんな病気?
脊髄・脊椎の疾患は、骨の要素である脊椎と神経を含むものですが、日常的にみる疾患のほとんどは脊椎の問題です。
このうち、胸椎は胸郭を支えているために運動要素が少ないのですが、頚椎・腰椎は周りに支える骨もなく、運動領域が非常に広いため、年齢とともに変形が起こりやすい部位です。
脊椎の疾患の起こり方としては、もともとの脊椎意の形の異常(脊柱管狭搾症、脊椎後湾症)や、年齢とともにおこる変形(変形性脊椎症、椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症、脊椎すべり症)が複合的に加わり、次第に悪化あるいは外傷をきっかけとして突然発症します。
主訴としては、痛み・しびれ・運動障害などがさまざまに加わります。
脊髄・脊椎ってなんだろう?
脊髄は、脳の延髄の下端から伸びていき、脊椎の脊柱管内を通って第1~2腰椎の高さまで続いています。
脊髄から多くの抹消神経線維が分かれており、この部分を神経根(しんけいこん)と呼びます。
第1~2腰椎より下は、神経根が束になっていて、馬尾(ばび)と呼ばれています。
身体各部の感覚は、脊髄を通って脳に伝えられ、脳からの運動命令も、脊髄を通って各筋肉に伝えられます。
また、脊髄には反射の中枢としての機能も持っています。
ただし、脊髄は非常に傷つきやすく、一度損傷を受けると回復しません。
脊椎(せきつい)は、一般的に背骨といわれている部分を指します。
動物を脊椎の有無によって、ヒトを含む脊椎動物と無脊椎動物に分けることは古くから行われてきましたが、実際には脊椎を持つ脊椎動物は、動物全体の中の一つの区分にすぎません。
ヒトの脊椎骨は、頭蓋骨の後頭骨にある大後頭孔より下降し、骨盤に至ります。
脊椎は、頸椎(7椎、稀に8椎)・胸椎(12椎)・腰椎(5椎)・仙椎(骨)(5椎)および尾椎(骨)(3~6椎)の約30個の椎骨から形成されています。(まれに数の違う人もいますが…)
骨と骨は関接で繋がっていて、その間にはクッションの役割をする椎間板があります。
脊椎の主な役割は、身体を重力から支えること、体幹に可動性を与えること、そして中を通っている(脊髄)神経の保護です。
脊髄・脊椎疾患
脊髄・脊椎疾患には以下のような治療を行います。
治療
- 投薬
消炎鎮痛剤、筋緊張改善剤、末梢循環改善薬などがありますが、効果は不十分かつ一時的なことがほとんどです。 - 理学療法
マッサージ、牽引、固定、テーピングなどがあります。効果は期待できますが、やはり一時的なことがほとんどです。 - 手術
上記の1,2と比べ、効果が高く、また長期間の症状改善が得られます。ただし、手術前にすでに脊髄・神経に変性をきたしている症例や、広範な変性が認められる症例、変性が複雑な症例では効果が上がりにくいこともあります。
一般的に、脊椎変性疾患の手術後の患者満足度は約70%と言われています。これは、術者側の問題というよりも、患者側の自覚症状をもとに治療を行うため、患者側の期待度ほどの効果があがりにくいことによるものと考えられます。
従って、脊椎変性疾患は手術前に患者側とのコミュニケーションをよくとり、丁寧な説明を行っておくことが大切であると考えています。
脊髄・脊椎疾患の手術には以下のような方法があります。
手術方法
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頚椎の手術
1.前方除圧・固定術:後縦靭帯骨化症など、頚椎後方要素の除圧に有効です。当院では腸骨稜を採取して除圧後の充填にあてています。
2.後方除圧・固定術:椎弓切除術、あるいは椎弓形成術が中心ですが、不安定性が心配される場合はロッドによる固定を追加しています。 -
胸・腰椎の手術
1.後方除圧・固定術:椎弓切除術、あるいは椎弓形成術が中心ですが、不安定性が心配される場合はロッドによる固定を追加しています。
2.椎間孔拡大術・ヘルニア核出術:椎間板ヘルニアのみの場合や、明らかに片側の症状を呈する場合に行っています。 - 椎体形成術
これは、上記1,2とは異なり、胸・腰椎圧迫骨折に対する治療です。当院では骨折した胸・腰椎の両側 lateral mass を経由して椎体内へハイドロキシンアパタイトブロックを充填する方法を行っており、昨年途中より小切開による経皮的手術に切り替えました。
手術時間も1椎体40分ほどであり、除通効果はめざましく、手術翌日より起床が可能となるので、特に臥床によりADLの低下の恐れのある高齢の患者さんにおすすめします。